2020年度、ニコちゃんの会の通所施設「多機能事業所 ニコちゃん家(にこちゃんち)」では、言葉や動きでの発信の難しい子どもたちとのコミュニケーションをさぐるため、ささやかな力で発信することのできるICT(情報通信技術)を活用した『スイッチ』でのあそびに力を入れて取り組みました。
『スイッチ』に専門性のあるスタッフはおらず、今まであまり積極的に取り組めていませんでしたが、子どもたちの発信について可能性を広げようと考え、「自分で伝えよう!2020」と題して1年間、専門の講師に学び、13人の子どもたちとともに実践してきました!
(※ここで言う『』付きの『スイッチ』とは、外部入力装置の各種スイッチ・接続デバイス・出力する家電や玩具などの一連の接続のことを示しています。)
「自分で伝えよう!2020」を始めようとした矢先、4月の緊急事態宣言により、ニコちゃん家も休所となってしまいました。
事業延期も考えましたが、講師の下川和洋先生にオンラインで繋がって教えていただくことで希望がみえ、現場のスタッフのそれぞれの得意分野をかけあわせ試行錯誤しながら、なんとか1年間取り組むことができました。
最初は『スイッチ』がよくわからずうまく反応できなかったり、緊張して発作を起こしたりしていた子も多かったのですが、この1年で何回も遊んでいるうちに、多くの子が自分のタイミングでスイッチ操作ができるまでになっていました。
たくさんエピソードはあるのですが、その中でも大きな成果と言えることがありました。
病気の進行により随意的な動きがほとんどできなくなった男の子。
普段はまばたきや、舌の動きでyes/noを判断しています。
今回の『スイッチ』あそびでは、身体のどこにスイッチをつけたらいいか検討したり、スタッフと一緒に何度も練習したり、たくさんの試行錯誤を重ねました。そして、ついに10月に、やっと一人でスイッチをONできたのです!
その子が自身で動けていた時のことを思い出し、今でも“自分の発信”ができることを実感できた瞬間でした。
本人の表情も満足そうで、ご家族とも共有しまた喜んで・・・その瞬間に立ち会えたことは、スタッフにとって言葉には表せないほどの嬉しい出来事でした。
ひとりひとり状態は様々ですが重い病気や障がいのある子どもにとって、“自分の発信”は周りが気づかなければ見落とされることが多くあります。そして本人自体も“自分の発信”への意欲や意味を感じていないこともめずらしくありません。
だからこそ、随意的であっても不随意的であっても、「自身が(ものや人に)変化を起こした」という因果関係に気づいてもらい、その経験ができる機会をひとつでも多く差し出すことが大切になってきます。
自分の力で何かが動くことに気づいた時の子どもたちの表情は、
とても生き生きとし、頼もしくみえました。
ここからは、この1年間の取り組みを順を追ってご紹介していきます!
≪『スイッチ』1年間のとりくみ≫
【5月】コミュニケーション支援勉強会 by Zoom
関東在住の下川先生にzoomで講師をしていただき、スタッフ・ご家族を対象に、コミュニケーション支援機器について学ぶ勉強会をひらきました。
【6月】スイッチ作り by Zoom
下川先生から事前に工作キットを送っていただき、電子工作の得意なスタッフを中心にはんだごてなどを使って実際にスイッチを作ってみました。下川先生とzoomで繋がり、作成した「リモコンシャッター」というスイッチで写真を撮るための設定なども行いました。
電子工作に慣れないスタッフばかりでしたが、みんな真剣に取り組みました!
【7月】スイッチ作成、おもちゃの改造・子どもたちに合ったツールの検討
担当スタッフが大奮闘しました!!
【8月】花火大会
室内で花火大会をしました!
子どもたち一人一人の動く部位を探していきながら、作成した色々なスイッチをつかってみんなに花火を打ち上げてもらいました!
部屋を真っ暗にして寝転んで、自分で花火を打ち上げます!
【9月】色々なスイッチあそび
ピエゾスイッチや手づくりスイッチを使って、iPadで写真を撮ったり扇風機やおもちゃを動かしたり、いろいろな遊びを実験しました。
棒状のスイッチを押して、ライト点灯!
指につけたピエゾスイッチで人知れず何枚も写真を撮っていました。
自分で自分に風を送っています!
【10月】調理実習「ミキサーを回そう!」
スイッチと自作の電源リレーでミキサーを回し、蒸しパンを作りました!
準備万端!やる気です!
ミキサーの音や振動を身体全体で感じ、回したときは心拍が上がったり表情がパッと変わったりしていました。
シンプルな仕組みが好きで何度も繰り返す子と、少し年齢があがると複雑な仕組みが好きな子もいて、ピタゴラスイッチ的な発想で2段階の仕組みにしたりそれぞれに合った遊びを考えました!
役割分担もできており、他の子がミキサーを回しているあいだ大きなボタンを押して3分クッキングのメロディを鳴らすDJが大活躍しました!大人の余裕の笑みです。
みんなでたのしくトッピング!美味しく出来上がった蒸しパンは、自宅へ持ち帰ってもらいました。
【11月】電動車「でんでん」と走ろう
電動車「でんでん」と車椅子を接続して、子どもたち自身がスイッチで車椅子を動かしました。普段は人に押してもらい移動するのが常の子どもたちが、自分の行為で移動し景色が変わる体験をすることができました。
動いたのが楽しかったようで、何度も瞬きをして走っていました。
【11月半ば】mabee電池でプラレールを動かそう
動きや表情が少なく本人の明確な発信をこちらが読み取ることが難しい男の子との関わりで、プラレールを通してとても印象的なことがありました。一度挑戦するもうまく動かせなかったまま通所の帰りの時間になったとき、目を真っ赤にしてポロポロ涙をながしたので、体調がよくないのか等色々と考えあぐねていました。あるスタッフが「もう1回プラレールやりたかった?」と聞くと涙が止まりました。まさかと思いながら再度セッティングすると、とてもスムーズにプラレールを走らせることができました!立派にリベンジしてくれました!普段コミュニケーションが難しいと感じていたスタッフが、この子と通じ合えたと大感激した出来事でした。
【12月】スイッチでクリスマスツリーの毎日点灯式
クリスマスツリーを段ボールで作るとこから始め、子どもたちにスイッチでイルミネーションを点灯してもらいました。クリスマスシーズンの毎日の楽しみになりました。
もみの木にみんなで色をつけました。色んな表情の枝ができました。
クリスマスソングが流れているときのみライトが光るようにセッティングしました。
クリスマスにはこのツリーのイルミネーションのもとで、音楽が得意なスタッフにフルートでクリスマスソングを奏でてもらい動画配信をしました。(ニコサンタ・動画配信はこちら)
【1~2月】節分の鬼を膨らまそう!
節分にちなんで、スイッチを入れると空気送付装置が作動し、段ボールに隠れていた鬼が大きくなるあそびをしました。子どもにあわせて好きな絵柄にしたりして工夫しました。
【3月】下川先生とZOOMでつながりましょう
子どもたちとの『スイッチ』あそびの実際を、下川先生にZoomで観ていただき、アドバイスをいただきました。PCとウェブカメラなどを用いて行い、スクリーンに大きく映し出し子どもたちにも見えるように工夫しました。
スタッフの試行錯誤を1年間優しく見守っていただきました。
今回の「自分で伝えよう!2020」では、『スイッチ』でのあそびを通して因果関係をまなぶ段階であり、子どもたちが“自分の意思発信をする”にはまだまだ至っていません。
しかし、こういった機会を継続してつくっていくことで、
子どもたちが、そして何より私たち関わる人たちが、子どもそれぞれの時間やタイミングを知り、意思疎通ができたときの喜びを感じることができます。
この取り組みの継続が、
子どもたちの“意思発信”の一助となり、これからのコミュニケーションの豊かさにつながっていけばと思っています。
1年間、根気よくお付き合いして導いてくださった下川先生、そして一緒に楽しんで喜びあってくださったご家族の皆様、本当にありがとうございました!
≪講師の紹介≫
下川 和洋先生
(NPO法人地域ケアさぽーと研究所理事 女子栄養大学・白梅学園大学等非常勤講師)
福岡県久留米市出身。東京学芸大学初等科教育養成課卒。卒業後、都立特別支援学校に勤務され、在職中より医療的ケアについて実践、研究を深め教育現場における医療的ケアの問題では第一人者であり、多くの情報を発信されている。また、特別支援学校や大学、児童発達支援事業や生活介護事業所の非常勤講師、さらにNPOでは「訪問カレッジ」という生涯学習事業で、通所が難しいため在宅や施設で過ごす障がいの重い方の生涯学習保障として「伝の心」「オペレートナビ」「マイトビー」など各種意思伝達装置を活用したコミュニケーション支援を進めておられます。
▼▼▼「自分で伝えよう!2020」で使用した『スイッチ』の接続レシピ集です!▼▼▼
2020スイッチレシピ集
学んでいる途中のニコちゃんの会ですが、色んな工夫をしているので、勉強中の方はぜひ参考にしてみてください。
主催:認定NPO法人ニコちゃんの会
助成:2020年度「田辺三菱製薬 手のひらパートナープログラム」助成事業
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